三角関数の公式は多岐にわたり、覚えるのが大変と感じる方も多いでしょう。しかし、安心してください。実際にはすべての公式を暗記する必要はありません。三角関数の定義や加法定理を理解すれば、多くの公式は自然と導き出せるのです。

本記事では、まず三角関数の定義と加法定理について詳しく解説し、それらを基にして他の公式を導出します。また、公式同士の関連性も整理しながら、単なる丸暗記ではなく、理解を深めることで自然に覚えることができる方法を紹介します。

本記事では以下のように三角関数の公式を分類していますので、参考にしてください。

  • (1)三角関数の定義を使って証明されるグループ
  • (2)加法定理を使って証明されるグループ

1 三角関数の定義

三角関数にはサイン(sin)、コサイン(cos)、タンジェント(tan)の3つがあります。これらはそもそもは直角三角形における辺の比率です。しかし直角三角形という前提があると角の大きさとして鋭角(0^\circ から 90^\circ)の場合しか扱えません。したがってより一般的な角度を扱うために、三角関数は円を使って定義されます。

まずは Figure 1 を見て三角関数の定義を確認してください。

Figure 1: 三角関数の定義

Figure 1 では以下のステップで円や点を作成しています。

  1. 中心が原点 O 、半径が r の円を描きます。
  2. この円周上に適当に点 A を加えます。この点 A の座標を (x, y) とします。
  3. A と円の中心を端点とする線分 OA を描きます。
  4. x 軸と線分 OA の間の角を \theta とします。このとき \theta は、x 軸の正の方向から反時計回りに測った角です。

この rxy\theta を組み合わせて三角関数を定義します:

  • \sin(\theta) = \frac{y}{r}
  • \cos(\theta) = \frac{x}{r}
  • \tan(\theta) = \frac{y}{x}

これらの基本的な定義を理解することが、後続する内容への基盤となります。

2 加法定理

加法定理は、異なる角度を持つ三角関数を結びつけるための重要なツールです。具体的には以下のようになります:

Theorem 1 (加法定理)  

  • \sin(A + B) = \sin A \cos B + \cos A \sin B
  • \cos(A + B) = \cos A \cos B - \sin A \sin B
  • \tan(A + B) = \frac{\tan A + \tan B}{1 - \tan A \tan B}

角度が A-B の場合も加法定理としてよく記載しますが、Theorem 1 において B-B で置き換えればすぐに導出できますので、ここでは省略します。

加法定理は三角関数の定義と並んで、他の公式を導くための基盤になります。加法定理自体は覚えておきましょう。

3 三角関数の等式の体系的な整理

三角関数には多くの公式が存在し、それらを体系的に整理することが大切です。最初に述べた通り、これらの公式は三角関数の定義と加法定理を用いて簡単に導出できます。本記事では三角関数の公式を整理した後、いくつか公式をピックアップして、実際に導出できることをご紹介します。

3.1 定義から導出する公式

これらの公式は三角関数の定義から求めることができます。

\sin^2{\theta} + \cos^2{\theta} = 1 \tag{1}

\tan(\theta) = \frac{\sin{\theta}}{\cos{\theta}} \tag{2}

1 + \tan^2{\theta} = \frac{1}{\cos^2{\theta}} \tag{3}


\sin{(-\theta)} = -\sin{\theta} \tag{4}

\cos{(-\theta)} = \cos{\theta} \tag{5}

\tan{(-\theta)} = -\tan{\theta} \tag{6}


\sin{(\pi - \theta)} = \sin{\theta} \tag{7}

\cos{(\pi - \theta)} = -\cos{\theta} \tag{8}

\tan{(\pi - \theta)} = -\tan{\theta} \tag{9}


\sin{\left(\frac{\pi}{2} - \theta \right)} = \cos{\theta} \tag{10}

\cos{\left(\frac{\pi}{2} - \theta \right)} = \sin{\theta} \tag{11}

\tan{\left(\frac{\pi}{2} - \theta \right)} = \frac{1}{\tan{\theta}} \tag{12}

3.2 加法定理から導出する公式

これらの公式は加法定理を使って求めることができます。

2倍角の公式

\sin{2\theta} = 2\sin\theta\cos\theta \tag{13}

\cos{2\theta} = \cos^2\theta - \sin^2\theta = 2\cos^2\theta - 1 = 1 - 2\sin^2\theta \tag{14}

\tan{2\theta} = \frac{2\tan\theta}{1 - \tan^2\theta} \quad (1 - \tan^2θ \neq 0) \tag{15}

半角の公式

\sin ^{2}\dfrac{\alpha }{2}=\frac{1 - \cos \alpha }{2} \tag{16}

\cos ^{2}\dfrac{\alpha }{2}=\dfrac{1+\cos \alpha }{2} \tag{17}

\tan ^{2}\dfrac{\alpha }{2}=\dfrac{1-\cos \alpha }{1+\cos \alpha } \tag{18}

三角関数の合成

a\sin \theta + b\cos \theta =\sqrt{a^{2}+b^{2}} \sin \left( \theta +\alpha \right) \tag{19}

ここで、

\begin{aligned} \cos \alpha &= \dfrac{a}{\sqrt{a^{2}+b^{2}}},\\ \sin \alpha &= \dfrac{b}{\sqrt{a^{2}+b^{2}}}. \end{aligned}

4 公式の導出

ここまでご紹介した以外にも三角関数の公式は多くあります。全て丸暗記することは大変ですし、何より数学的な理解につながりません。ある公式が何から導出できるかを理解しておくと、公式間のつながりがわかり、ストーリーが生まれます。ストーリーをベースにして公式を分類・理解することで、単なる丸暗記ではない、理解と応用力を伴った暗記を行いましょう。

ここでは上記の公式からいくつかピックアップして確かにそれらの公式が定義や加法定理から導かれることを確認します。なお厳密な証明は目的ではなく、あくまでも公式間の関係について理解を深めることを目的としています。

4.1 定義を使った導出

4.1.1 \sin^2{\theta} + \cos^2{\theta} = 1 の導出

三角関数は円を使って定義されます。円は1点(中心)からの距離(r)が等しい点の集まりですから、 Figure 1 中にある円周上の任意の点である、点 A の座標 xy について三平方の定理より、以下の式が成立します。

x^2 + y^2 = r^2 \tag{20}

ところで三角関数の定義を見ると、\sin \theta には y が、 \cos \theta には x が含まれています。つまりこれらの2乗を計算して足すと x^2 + y^2 が現れ、 Equation 20 を使えそうです。

ということで、試しに \sin \theta\cos \theta の2乗同士を足してみましょう。

\begin{aligned} \sin ^{2}\theta +\cos ^{2}\theta &= \left( \dfrac{y}{r}\right) ^{2}+\left( \dfrac{x}{r}\right) ^{2}\\ &=\dfrac{y^{2}}{r^{2}}+\dfrac{x^{2}}{r^{2}}\\ &=\dfrac{x^{2}+y^{2}}{r^{2}}\\ &=\dfrac{r^{2}}{r^{2}} \qquad \left( \because x^{2}+y^{2}=r^{2}\right) \\ &=1. \end{aligned}

確かに Equation 1 が導かれました。定義からあっさりと導けたと思います。実質的に、中心と円周上の点の距離は半径であることを述べている式であるといえるでしょう。

4.1.2 1 + \tan^2{\theta} = \frac{1}{\cos^2{\theta}} の導出

Equation 1\sin \theta\cos \theta の関係を表しています。では \cos \theta\tan \theta の関係はどうなっているのでしょうか?Equation 1 の両辺を \sin ^2 \theta で割っても \sin^2 \theta が残りそうですので、 \sin \theta を除去するために、\cos ^2 \theta で両辺を割ってみましょう(\cos \theta = 0 の場合は無視しています)。

\begin{aligned} \sin ^2 \theta + \cos ^2 \theta &= 1 \\ \frac{\sin ^2 \theta}{\cos ^2 \theta} + \frac{\cos ^2 \theta}{\cos ^2 \theta} &= \frac{1}{\cos ^2 \theta} \\ \frac{\sin ^2 \theta}{\cos ^2 \theta} + 1 &= \frac{1}{\cos ^2 \theta}. \end{aligned} \tag{21}

\frac{\cos ^2 \theta}{\cos ^2 \theta} = 1 ですから、上式のようになりそうです。まだ左辺がややこしいですね。しかしこの左辺にある2乗の形、Equation 2 に似ていませんか?Equation 2 より、

\frac{\sin ^2 \theta}{\cos ^2 \theta} = \left( \frac{\sin \theta}{\cos \theta} \right)^2 = \tan^2 \theta

ですから、\tan \theta を使って \sin \theta を除去できそうですね。したがって、Equation 21 は以下のようになります。

\begin{aligned} \frac{\sin ^2 \theta}{\cos ^2 \theta} + 1 &= \frac{1}{\cos ^2 \theta} \\ \tan ^2 \theta + 1 &= \frac{1}{\cos ^2 \theta} \end{aligned}

無事に Equation 3 を導出できました。

4.1.3 \sin{(-\theta)} = -\sin{\theta}, \cos{(-\theta)} = \cos{\theta} の導出

このタイプの公式では、 \theta に対応する点 A 対して、 - \theta に対応する点 A' を考えます (Figure 2)。

Figure 2: -\theta の場合の考え方

三角関数の定義を使うと \sin (-\theta) は点 A'(x, -y) の座標に対して計算されますので、以下のようになります。

\begin{aligned} \sin (-\theta) &= \frac{-y}{r} \\ &= - \frac{y}{r} \\ &= - \sin \theta. \end{aligned}

円を使った三角関数の定義を使うと、簡単に導き出せますね?

もう一つ、 \cos{(-\theta)} = \cos{\theta} も導出しておきましょう。

先ほどと同様に考えますが、コサインの計算ですので今度は x 座標を使います。

\begin{aligned} \cos (-\theta) &= \frac{x}{r} \\ &= \cos \theta. \end{aligned}

サインの場合は点 A(x, y) と点 A'(x, -y)y 座標の符号が変わっていたので、\sin (- \theta) = - \sin \theta となりました。一方でコサインの場合は x 座標に変化がないので、 \cos (- \theta) = \cos \theta になり、同じ値を取ります。やはり三角関数の定義を使うと明らかですので簡単に思い出せる、あるいはそもそも覚える必要がないことがわかりますね?

4.1.4 \sin{(\pi - \theta)} = \sin{\theta} の導出

- \theta の時と同様に考えれば導出できます。Figure 3 を見てください。

Figure 3: \pi - \theta の場合の考え方

今回は点 A' の座標が (-x, y) になっている点に注意してください。紫の直角三角形とオレンジの直角三角形は合同です。\pi - \theta は一旦 \pi という角度をとり、その後 \theta だけ時計回りに戻ったと考えてください。すると紫の三角形の点 O の周りにおける角度は \theta となります。直角三角形の斜辺は円の半径ですので等しいです。従って「直角三角形において斜辺と他の1つの鋭角がそれぞれ等しい」ので、紫の三角形とオレンジの三角形は合同であるとわかります。

では三角関数の定義に従ってサインを計算してみましょう。

\begin{aligned} \sin(\pi - \theta) &= \frac{y}{r} \\ &= \sin \theta. \end{aligned}

簡単に示せました。三角関数の定義に従っていけば問題なく導けますね。コツとしては、 \pi - \theta を式から除去して \theta を使ういう意識が重要です。

4.1.5 \tan{\left(\frac{\pi}{2} - \theta \right)} = \frac{1}{\tan{\theta}} の導出

\frac{\pi}{2} を含むケースでは少し慣れが必要です。とりあえず結論としては、Figure 4 のように、点 A' の座標に対してタンジェントを考えるとこの公式を導けます。

Figure 4

コツとしては一度 x 軸の正の方向から反時計回りに \frac{\pi}{2} の角度をとり、そのあと \theta だけ戻ってくると考えます。このとき角の大きさが \frac{\pi}{2} - \theta になります。

この時できる点 A' を含む紫の三角形は、実は点 A を含むオレンジの三角形と合同です。どちらの三角形も直角三角形であり、斜辺の長さは円の半径 r であり等しいです。紫の三角形において点 O の周りにある角の大きさは先ほど考えたように \frac{\pi}{2} - \theta です。すると三角形の内角の和は \pi ラジアンですから、点 A' の周りにある残りの角の大きさは以下のようになります。

\pi - \frac{\pi}{2} - \left(\frac{\pi}{2} - \theta \right) = \theta

「直角三角形において斜辺と他の1つの鋭角がそれぞれ等しい」ので、紫とオレンジの三角形は合同といえます。したがって点 A' の座標は A'(y, x) となります。大丈夫でしょうか?

この点 A' に対してタンジェントを考えると、以下のようにまります。

\begin{aligned} \tan \left( \frac{\pi}{2} - \theta \right) &= \frac{x}{y} \\ &= \frac{1}{\frac{y}{x}} \\ &= \frac{1}{\tan \theta}. \end{aligned}

これで導出できました。もちろん \tan \theta = 0 の場合、この公式は成立しない点に注意してください。

4.2 加法定理を使った導出

加法定理を使って導出する公式についても少し紹介しておきます。

4.2.1 Equation 13: \sin{2\theta} = 2\sin\theta\cos\theta の導出

Theorem 1 \sin(A + B) = \sin A \cos B + \cos A \sin B において A = B = \theta の場合を考えてみましょう。A + B = \theta + \theta = 2\theta となるので、公式と同じ角の大きさを作ることができますね。このとき加法定理を使ってみましょう。

\begin{aligned} \sin(A + B) &= \sin A \cos B + \cos A \sin B \\ \sin(\theta + \theta) &= \sin \theta \cos \theta + \cos \theta \sin \theta \qquad (\because A = B = \theta) \\ \sin(2 \theta) &= 2 \sin \theta \cos \theta. \end{aligned}

あっさりと導けました。

4.2.2 Equation 14: \cos{2\theta} = \cos^2\theta - \sin^2\theta = 2\cos^2\theta - 1 = 1 - 2\sin^2\theta の導出

Equation 14 の基本的な形は \cos{2\theta} = \cos^2\theta - \sin^2\theta です。あとの2つの公式はこの公式からすぐに導けます。

先ほどのサインの場合(Equation 13) と同様に、 A = B = \theta のときを考えてみましょう。

\begin{aligned} \cos(A + B) &= \cos A \cos B - \sin A \sin B \\ \cos(\theta + \theta) &= \cos \theta \cos \theta - \sin \theta \sin \theta \\ \cos (2 \theta) &= \cos^2 \theta - \sin^2 \theta. \end{aligned}

これが1つ目の公式です。他2つの公式はコサインのみ、サインのみでそれぞれ表されています。したがって「サインを消す」、「コサインを消す」という操作をそれぞれ行えばよさそうです。サインとコサインをつなぐ公式は Equation 1 ですので、これを使いましょう。

\begin{aligned} \cos (2 \theta) &= \cos^2 \theta - \sin^2 \theta \\ &= \cos^2 \theta - (1 - \cos^2 \theta) \\ &= 2 \cos^2 \theta - 1. \end{aligned}

サインの場合も同様に示せます。

\begin{aligned} \cos (2 \theta) &= \cos^2 \theta - \sin^2 \theta \\ &= (1 - \sin^2 \theta) - \sin^2 \theta \\ &= 1 - 2 \sin^2 \theta. \end{aligned}

5 まとめ: 公式を自然に覚えるための方法

以上のように、三角関数の公式は定義や加法定理を使って、簡単に導き出せることがわかりました。このような公式の導出に慣れておくと、語呂合わせによる単なる丸暗記と比べ、公式間のつながりや公式自体の理解、そしてこの分野で良く行う変形など多くのことが学べます。

本記事で確認したように、三角関数の公式は、「(1)三角関数の定義を使って証明されるグループ」と「(2)加法定理を使って証明されるグループ」に分類することができます。どの公式がどちらのグループに分類されるかを改めて確認しておきましょう。

公式の導出方法は一度行っただけで自然と身につくものではありません。繰り返し導出を行ってみてください。重要なことは公式の導出過程で、「なぜそのように考えたかを自分なりに整理しておくこと」です。「次回自分で導出できるためには、何を知っておけばよいか」このことを常に考えながら取り組んでみてください。公式の丸暗記と違い、考え方というのは理解してしまえば案外忘れづらいものです。

合わせて公式を使った問題を繰り返し解いてください。問題を解く際には公式を見ながらでも構いません。繰り返し公式を使うことで自然と公式が身についてきます。またその都度公式の導出を行ってもよいでしょう。公式を忘れていてもすぐに導出できます。

この記事では一部の公式のみを扱いましたが、他の公式についても導出をすぐに行えるようにしておくと良いですね。

公式の導出は遠回りなようですが、本気で数学の力を高めたいのなら、避けては通れない道です。そして単なる丸暗記と比べ、三角関数における基本的な考え方や代表的な式の変形方法など、応用へつながるさまざまな重要なことを学べます。丸暗記ではなく、公式の導出と繰り返しの問題演習を通じて自然と公式を覚えていきましょう。